Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/htdocs/index.php on line 68

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/GlobalConfig.class.php on line 294

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/Controller.class.php on line 153

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/LogFactory.class.php on line 116

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/DIContainerFactory.class.php on line 76

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/DIContainer.class.php on line 184
はじめての席亭 - かしわーど・柏ミニ文学賞

リンク集

◆オガコムジャパン・ホームページ
インターネットのオガコムジャパン
◆朝寝・朝酒・朝湯が大好きブログ
美味しいお酒と朝ごはん
◆完熟苺・くらもち観光農園のサイト
◆シンガーソングライター・とっとの日記
◆ツイッター・かしわーど公式アカウント
 
◆マヌエル洋平のブログ
◆柏SNS
柏SNS

本サイトは、国立情報学研究所が
提供しているNetCommonsを用
いて構築されています。
NetCommonsは国立情報学研究所
の登録商標です。
 
NetCommons 

携帯はこちらから

携帯はこちらから
 
携帯はこちらから
ご利用ください

ご来場者数

COUNTER290510

オンライン状況

オンラインユーザー12人
ログインユーザー0人

言語選択

言語の選択:

はじめての席亭   (RegNo.0013)

タイトル: 「はじめての席亭」
ジャンル: 小説


 手賀沼のほとりには、風光明媚で知られる柏ふるさと公園があり、柏市民の憩いの場として親しまれている。休日ともなれば人出も多いが、平日の昼間はそれほどの人出もなく、公園を訪れる人もまばらであった。そんな中の1人である中村俊之は、柏市内の企業に勤務する30歳のサラリーマン。市内のアパートで独り暮らしをしている独身。営業職の彼は、1日の大半を顧客回りで過ごすが、思うような成果が得られなかった時や少し考え事をしたい時など、この公園で考え事をするのが日課になっていた。この日も自分の不手際で、客からお小言を頂戴してしまい、気分直しにとばかりにこの公園へふらっとやって来ていたのだった。
  
 柏ふるさと大橋下の駐車場に車を停め、真夏の陽射しを避けるように木陰のベンチに腰掛けた俊之は、ここ2ヶ月ほど前からよく見かけるようになった妙に気になる男のことを考えていた。年のころなら27、8歳だろうか、ひょっとしたらもう少し若いかもしれない。いつも何か思いつめた様子で、ブツブツと独り言を言いながらベンチに座っている男は、時折首を左右に振ったりしていた。この日も近くのベンチに腰掛けている男を見かけた俊之は、軽い調子で声を掛けてみた。
 「こんにちは、今日も暑いですねえ」
男は一瞬俊之を見たような感じだったが、まるで聴こえなかったように、そのまま無言で立ち去ってしまった。その後何度か公園を訪れた俊之だったが、それ以降その男と出会うことはなかった。 (変に声を掛けたから、嫌気が差しちゃったのだろうか?)
 
 それから1ヶ月ほど経ったある日曜日、国道16号線沿いにある白金の湯でのんびりと露天風呂に浸かっていた俊之は、窓越しに風呂の縁に座っている男の姿を認めた。初対面同様の人に裸で声を掛けるのは気が引けた俊之だったが、男の正体を探る絶好の機会という思いが、俊之の行動力を積極的にさせた。
 「あの、ここよろしいですか?」
不意に声を掛けてきた相手に対し、警戒の表情を浮かべる男。
 「すみません、急に声を掛けたりして」俊之は照れ笑いを浮かべながら、言葉を続けた。
 「よく柏ふるさと公園のベンチに座っているあなたを見かけていたので、気になっていまして。最近姿をお見かけしなくなったし」
 「ああ・・・」男も何となく俊之の顔に見覚えがある様子だった。
 「しばらく、地方へ仕事に行っていました」
初めて聞く男の声は、思ったよりも甲高い声だった。
 「そうでしたか、以前声を掛けて気を悪くされたのかと心配していたんですよ」俊之は男が何も気にしていない様子だったのに安堵した。
 「私は、中村俊之と申します。柏市内の会社で営業マンをしているのですが、仕事の合間によくあの公園へ行くんですよ」
 「そうでしたか。私は、あそこでよく稽古をしています」
 「稽古?」男が発した意外な言葉に思わず反応する俊之。
 「私、落語家で笑門亭福太郎と申します。どうぞお見知りおきを」そう言って福太郎は丁寧に頭を下げた。
 「あそこで落語の稽古をしていたんです」
 「落語家さん?」俊之は、今まで落語を聴いたことはなかったが、自分が抱く落語家のイメージはお爺さんのような年齢だったので、目の前の若い男が落語家だと言うのに驚いた。
 「落語家さんって、もっと年寄りのイメージでしたよ」
 「よく言われます。私はまだ25歳なんですけどね」そう言いながら福太郎は、少々はみ噛んだ表情を浮かべた。
 「私は2ヶ月前に二つ目に昇進したばかりでして。今はたくさん噺を覚えないといけない時期なので、仕事のない時はよくあの公園で稽古をしています」
 「ふたつめ?すみません、私は落語に詳しくないから」俊之は恥ずかしそうに頭を掻いた。
 「いやあ、失礼しました。普通そうですよね」人の好さそうな笑顔を浮かべる福太郎。
 福太郎は、落語界に厳しい身分制度があり、前座、二つ目、真打という階級があることを俊之に説明し、自分の師匠である笑門亭福助が柏在住なので、自分も師匠宅に近い柏市内のマンションに住んでいることを明かした。
 「福助師匠ってテレビで見たことがありますよ、福太郎さん。あ、呼び方は福太郎さんで良かったのかな?」相手が芸人と分り、何となく親近感を抱いた様子の俊之。
 「真打だと師匠って付けますが、私はそう呼んでいただいて構いません」
福太郎は他人の目が気になったのか、俊之を人気のない露天風呂へ誘った。
 「じゃ早速ですけど福太郎さん、落語の稽古って外でするものなんですか?」当然とも思える俊之の疑問に福太郎は笑いながら
 「稽古のやり方は人それぞれだと思いますが、声を出さないと稽古にならないので、声を出しても迷惑にならないよう場所には気を遣っています。自分の部屋でばかりだと気が滅入ってしまうので、気分転換も兼ねて公園で稽古をしています」
 「その気持ち分りますよ」胸に覚えのある俊之は福太郎の気持ちがよく分った。
 「ただ、不審者と間違えられたりすることもあって」福太郎は恥ずかしそうに笑った。
 「寄席を含めて、他人様の前で落語をやるのが私にとっては1番の勉強になるのですが」福太郎は、そう言って雲ひとつない空を見上げた。
 しばらく福太郎から落語の基本を教えてもらった俊之は、明後日に福太郎が出演するという日暮里の勉強会へ行く約束をし、福太郎と別れた。
 
 自宅に帰った俊之は、福太郎の所属する第一落語協会のホームページを開き、彼のプロフィールをチェックした。 (福太郎さんは、まだ落語家になって4年ぐらいなんだな)
俊之は、ホームページに自分の知らない落語家がたくさん紹介されているのに驚くとともに、東京都内で毎日のように落語会が開催されているのを知ったのだった。2日後、会社を定時で上がった俊之の姿を日暮里のサニーホールで見ることが出来た。その日は福太郎だけが出演する独演会で、観客は定員の3割といったところだった。ステージの中央には、毛氈が掛けられた一段高い場所が設けられ、その上に高級そうな紫の座布団が置かれていた。開演時刻よりも少し早く太鼓の音が鳴り響き、続いて別の調子の音楽が鳴り始めたころに舞台の下手から着物姿の福太郎が登場した。後で分ったことだが、最初に鳴ったのが2番太鼓と呼ばれるもの、次に鳴ったのが福太郎の出囃子だった。時候の挨拶、身近な笑い話などから始まった落語は、初めて聴く俊之をすっかり虜にしてしまうぐらい魅力的なものだった。俊之は、まるで全身に電気が走ったような衝撃を感じた。
(同じ笑いでも、バラエティ番組で見るような宴会芸レベルの芸能人とは、全然質が違う)
公園で、ともすれば不気味にブツブツ言いながら座っていた男とは、別人の福太郎がそこにいた。
 
 この日、福太郎が演じたのは「牛ほめ」と「粗忽長屋」に「青菜」。
水を得た魚のように伸び伸びとした自然な演技でご隠居さん、八さん、熊さん、与太郎らを演じる福太郎に感心する俊之だったが、まだキャリアの短い福太郎にさえそんな思いを抱くのだから、落語の奥深さは相当なもののように感じられた。終演後観客に挨拶するため、出口付近に立っていた福太郎を見つけた俊之は、彼の側に駆け寄り
 「福太郎さん、良かったです。すっかり落語の魅力に取り付かれた感じです。もっと落語を聴いてみたくなりましたよ」と興奮冷めやらぬといった表情で言った。
 「そう言っていただけると嬉しいですね。ぜひまた足を運んで下さい。今夜はわざわざのお運びありがとうございました」福太郎はにこやかな表情で頭を下げた。
 
 初めて落語を聴いた感激を誰かに伝えたい。帰りの電車の中でそんな思いが沸々と込み上げてきた俊之は、行きつけである柏駅東口からほど近い「ダイニングバー やっつけ」に足を運んだ。
 「いらっしゃいませ俊之さん。今日は何か良いことがあったんですか?」
 どこか嬉しそうな表情で入ってきた俊之の姿を認めた店員の雄一がそう声を掛けてきた。
その声に引き摺られるように、厨房からオーナーの山川も顔を覗かせ
 「あ、俊之さんいらっしゃい」
 カウンターに陣取っていた常連たちも俊之に「久し振りです」などと声を掛けた。
 「こんばんは。いやあ、今日は実に良い心地だ」落語のことを話したくてたまらない俊之は、思わずうわずった調子で挨拶した。
 「今日初めて落語を聴いてきたんだけど、ホント良かった。とても楽しかったよ」俊之は、カウンターの中にいる雄一に声を掛けた。
 「へえー、俊之さん落語を聴いてきたんですか?」今まで俊之から落語の話など聞いたこともなかった雄一は、意外そうに聞いた。
福太郎との出会いから落語を聴いてきた経緯を掻い摘んで話した俊之は、周囲の反応もよそに一人機嫌よく話し続けた。
 「あんなに笑ったのは、久し振りかも」今でも可笑しさが込み上げてくるのか、俊之は思い出し笑いをしながら言った。
 「落語って聴いたことはないけど、何だか古臭い感じがしますよね」と雄一がポツリ。
その後も俊之の意に反した反応が続き、落語の話は尻すぼみに終ってしまった。
 (何とか落語の面白さを皆に分ってもらいたい。ひょんなことから知り合ったけれど、柏在住の福太郎さんを応援してあげたいのだけどなあ)
 
 それからの俊之は、まるで人が変わったように落語会に足を運ぶようになった。福太郎の出演する会だけでなく、いろいろな落語家さんを聴き、福太郎のレベルがどの程度なのかを知ろうとした。そうするうちに、自然と落語ファンの顔見知りが増え、挨拶するような間柄になる人も現れ始めた。そういった人々と終演後に酒を酌み交わすことは、俊之にとって大いに刺激となった。仲間内でも福太郎の評判はなかなかで、このまま精進を重ねていけば、出世は間違いないと太鼓判を押す人もいた。その中の1人で、応援している落語家を焚きつけて、自分で落語会を主催している畠山という男がいた。俊之も畠山の行動力には常々敬意を表していたが、飲んだ席でよく畠山から
 「俊之さん、せっかく福太郎さんのご近所に住んでいるんだから、柏で席亭になったらどう?」と何度も炊きつけられていた。
落語の世界では、寄席や落語会の主催者を席亭と呼ぶ。いろいろな場所で席亭を務める
畠山は品の良い笑顔で
 「応援する落語家さんが、出世していくのを見るのは実に楽しいものです」と言うたびに、俊之は心底嬉しそうに見えたのだった。
 
 以前俊之は、落語会終演後の打上げの席で福太郎に「柏では勉強会をやらないのか?」と聞いたことがあった。
 「師匠が出演される柏の会には出させてもらっているけど、独演会はやったことがない」
 師匠に遠慮があるのか、柏で会をやることにどこか煮え切らない福太郎の様子に俊之は少々苛立ちを覚えながらも
 「素人の私が言うのもなんだけど、福太郎さんの芸は悪くないし、地元で会をやったらお客さんも集まると思うけどなあ」
柏では、いくつかの落語会が開催されていたものの、都内に比べれば開催数も少ないし、落語熱もそれほど高い街とは言えなかった。
そんな街だから、福太郎も開催に二の足を踏んでいたのだった。
 「以前、他人様の前でやるのが一番勉強になるって言っていたじゃないですか」俊之は白金の湯で聞いた福太郎の言葉が今も耳に残っていた。
 「それはそうですが、会を開催する適当な場所がなかなか見つからなくて」
畠山を見習って自分が会を主催できれば良いと思う俊之だったが、周囲に落語に理解のある人が少なく、声を掛けてもどのくらい集まってくれるか正直不安もあった。
それ故、なかなか会の開催に踏み切れないでいたのだった。
 (会場は、やっつけが良いのだけど、あそこは落語好きがいないからなあ)
  
 落語会は、寄席以外にも公共の施設や居酒屋、喫茶店、蕎麦屋など様々な会場で行われていた。そんな会に足を運ぶうち、俊之は手頃なスペースで周囲もそれほど騒がしくないやっつけならばと目を付けていたのだった。
 「落語はまだこの年で聴くのは早いですよ」俊之とそれほど年齢の変わらない山川は、話を向けられる度にそう言っていた。
 「山川さん、そんなことないですよ。現に自分だって聴いているし、けっこう若い人も落語を聴きに来ていますよ」店へ行く度に俊之は根気よく諭すように言うのだった。
 さらに半年ほどが過ぎたある日、いつものように落語帰りにやっつけに寄った俊之は、またかといった様子の雄一相手に聴いてきた落語の話を始めた。しばらくして、聞くともなしに聞いていたといった感じの隣に座った男から、俊之は声を掛けられた。
 「あの、落語に興味がおありなんですか?」
日焼けした精悍な雰囲気の男は、人懐っこそうな顔を浮かべてそう言った。
 「ええ、まあ」初対面の男に声を掛けられた俊之は、緊張の面持ちで答えた。
 「俊之さん、そいつは僕の高校時代の同級生で誠司って言います。しばらく仕事が忙しくて、久し振りにここに来たんですよ」
雄一に紹介された誠司は、鳥山誠司と名乗った。
 「中村俊之です。誠司さんも落語はお好きですか?」雄一の同級生だと分り、急に親近感が湧いた様子の俊之。
 「最近は寄席に行っていないけど、以前は浅草によく行っていましたよ」テレビでお馴染みの春風亭小朝のファンだと言う誠司は、俊之にとってやっつけで初めて出会う落語ファンだった。俊之は、今までのいきさつを掻い摘んで誠司に聞かせ、やっつけで落語会をやってみたいと打ち明けた。誠司は俊之の話に真剣に耳を傾けていたが、おもむろに
「山川さん、面白そうじゃないですか、やりましょうよ落語会」と厨房にいる山川に声を掛けた。
 「うちのお客さんで落語好きなのは、誠ちゃんと俊之さんだけなんだよ。人が集まらないよ」山川は手を振って誠司の言葉を遮ろうとした。
 「山川さん、落語を生で聴いたことないんでしょ。聴けば面白さが分るって」誠司はなおも畳み掛けた。そんなやり取りを呆然と眺めていた俊之だったが、ふっと我に帰り
 「1度福太郎さんを店に連れて来るから、実際に会って話してみて下さいよ。彼の人となりを見てから判断して下さい」
いつもは俊之一人だが、今日は誠司という援軍が現れ、やや劣勢になった山川は
 「そこまで言うなら、1度お目にかかりたいね」そう言って厨房に戻っていった。
 そんなやり取りを見ていた雄一が不安そうに
 「誠司、そんな大きなこと言っちゃって。多くの人を集められるのか?」と心配そうに聞いた。
 「大丈夫だよ、人は俊之さんが集めてくれるよ。ねえ、俊之さん」開催の道筋をつけたけど、後のことは知らんとばかりの誠司。
 「僕だって、何の成算もなく、開催したいなんて言わないよ。任せておいて」一抹の不安はあったが、俊之は誠司の手前もあり、勇気を奮い立たせるようにして言った。
 
 数日後俊之は、寄席の帰りの福太郎を伴って、やっつけに現れた。
カウンターにいた常連客も事の推移を見守るように山川と福太郎の対面を見守っていた。
15分ほど福太郎と話しをした山川は、熱心に落語について語る福太郎に興味が湧いたようで
 「俊之さん、福太郎さんも一生懸命やってくれるって言うし、落語会を1回やってみましょう。出来れば、店が暇な時期である2月が良いかな」
 「え、山川さん本当に良いの?福太郎さん2月のスケジュールはどうなってますか?」
 「第2日曜日が空いています」
 「よし、それで決定。準備期間もあまりないから、ただちに告知のチラシ作成に取り掛かりますよ」俊之の明るい声が店内に響いた。
翌日やっつけの内外に「やっつけ落語会」と題した落語会告知のチラシが貼られると、噂を聞いていた常連客たちは
 「いよいよ落語会やるんだあ」
 「落語って面白いのかなあ」などと囁きあった。
山川と相談の結果、やっつけでの落語会は、落語と懇親会のセットで行うこととし、会費はやっつけに来る客の年齢層を考え、相場よりも安く設定した。
 「日頃のお客様への感謝を込めて、大盤振る舞いをさせてもらいますよ」山川は、やっつけを愛してくれる客たちに感謝の意を表すため、このイベントは良い機会だと考えたのだった。
俊之は勤務先で参加者を募る一方、柏SNSのオフ会を通じて知り合った仲間や落語仲間にも声をかけ、嫌がる同僚も含め15人ほどを集めた。
もちろんやっつけで飲んでいる時も
 「今度ここで、落語会をやるんですが、良かったら来ませんか?」初対面だろうが、顔馴染みだろうが関係なく俊之は声を掛け、参加者を募った。そんな中、常連客の高村が3人の友人を伴って来てくれると言った時には、俊之は思わず満面の笑みで顔を綻ばせた。 (有難いなあ、これなら何とかなりそうだ)
 
 開催当日、都合で来られなくなった人から思いがけず花が届いたりして、会場は華やかな雰囲気に包まれた。高座のセッティングは、慣れないながらも俊之が行い、ワープロ打ちだがめくりも用意した。開場時間前に会場入りした福太郎には、高座に座ってもらって照明の照らし加減のアドバイスをもらった。照明係の雄一にライトの向きを変えるよう頼み、開演を待つばかりとなった。この日の観客は22名。ほとんどが落語を初めて聴こうという面々で、用意した椅子席は全て埋まった。開演に先立ち、俊之から注意事項を含めた挨拶があり、俊之がカウンター奥に引っ込んでいよいよ開演と相成った。
 
 CDラジカセから流れる出囃子、場内からの拍手とともに福太郎登場。急ごしらえのやや不安定そうな高座の上に敷かれた座布団に座り、慣れた所作で頭を下げた。
 「お遊び場所の多い中、今日はようこそのお運び、誠に有難う存じます。今日は皆さんに喜んでもらえるよう精一杯の高座を勤めたいと存じます」そう言い終わった福太郎がもう1回頭を下げると、会場から大きな拍手が巻き起こった。初心者に理解してもらえるだろうかという俊之の不安をよそに、福太郎の軽妙なトークは、客席を大いに賑わせた。始終温かい雰囲気のなか笑い声が店内をこだまし、客たちは福太郎の話芸に酔いしれた。観客は、噺家との距離感が格段に近く感じられるこの落語会で、落語の世界に勢いよく引き摺りこまれた。 終演後観客の満足そうな表情を見たり
 「楽しかった」
 「次回は両親も連れて来たいです」そんな声がやっつけ店内のあちこちから飛び交っているのを聞いた俊之は、この場所で福太郎を呼び、皆に落語を聴いてもらったのに間違いはなかったと確信したのだった。 
 
 懇親会では、二手に分かれたテーブル席を行ったり来たりで大忙しの福太郎だったが、全員で記念撮影も終え、3本締めで中締めとなったところで
 「俊之さん、懇親会の席でお客さんと直に接して、満足感が十分伝わってきましたよ。今回は、良いお客様に助けられました」
俊之は、嬉しそうな様子の福太郎を見ながら
 「福太郎さんの実力がなければ、こうはいかなかったと思いますよ」と言った。
山川もお客さんの満足そうな表情を見てとり「福太郎さん、俊之さん、またぜひ次もやりましょうよ。私も大いに楽しませていただきました」
どちらかと言えば若者向けのこの店で、まさか落語会を開催するとは思っていなかった山川は、これを機会に新たな客層を呼び込むことに自信を深めていた。
 「落語がこんなに面白いとは思いませんでした。俊之さんがいなかったら、食わず嫌いでしたね」山川の本音だった。
 「私だって、公園で福太郎さんを見かけなかったら、ここまで落語にはまっていたかどうか。これも柏に住んでくれていた福太郎さんのおかげです」俊之も心底そう思っていた。会の成功を喜ぶ2人の話を聞いた福太郎は「私も俊之さんに言われた時は、ここで落語がやれるのか半信半疑だったんです。でも、俊之さんや山川さんのお陰で、こんな大勢さんの前で落語が出来たことを本当に嬉しく思っています」と言って、2人に頭を下げた。
そんな3人を横目に
 「俊之さん、次の2次会の場所に移動しますよ」誠司の一際大きな声がやっつけ店内に響いた。
 「片付けが終ってから、合流します」誠司に腕を捕まれ、次の会場へ引っ張られている福太郎を見つつ、俊之はそう言って飲み足りない面々を笑顔で送り出した。
 
 その数ヶ月後に第2回目が開催され、前回以上の観客を集めた落語会は、その後何年もやっつけの名物イベントとして、歴史を刻むこととなった。俊之はと言えば、相変わらず寄席や落語会に足を運ぶ一方、やっつけでの落語会成功に自信を深めたのか、柏寄席開設を夢見る日々。何年か経って、福太郎が真打に昇進するころ、柏駅前あたりで柏演芸場がオープンしているかもしれない。
(終わり)
 
 
作: 政之助(ペンネーム)

author: masanosuke
registration No. 0013
application date: 26 July,2009
published date: 26 July,2009

下記のメディアで紹介されました。
るるぶ柏・松戸 様
bayfm78(ベイエフエム)様
 
かしわーど・お問合わせ先

かしわーど文学作品(一部)

ゴールド賞受賞
立花静人「チラカユウヤケソバ」

シルバー賞受賞
白井かなこ「あした、あたし、晴れ」


応援なう!

手賀沼ジュン(BIG JUHN)
かしわ演劇祭~かしげき~


かしわーどパートナーズ

1件も登録データがありません
新規登録 | サイトマップ | このサイトについて | 個人情報について
かしワード・柏ミニ文学賞実行委員会
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/DIContainerInitializerLocal.class.php line 42
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/ComponentLocatorFactory.class.php line 77
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/UniFactory.class.php line 167
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/UniFactory.class.php line 194
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/nccore/ActionExtraChain.class.php line 91
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/nccore/ActionExtraChain.class.php line 100
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/ActionChain.class.php line 140
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/ActionChain.class.php line 149
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/nccore/SmartyTemplate.class.php line 267
[Unknown_Condition_8192]: Assigning the return value of new by reference is deprecated in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/core/FilterChain.class.php line 132
[PHP_Warning]: session_regenerate_id() [<a href='function.session-regenerate-id'>function.session-regenerate-id</a>]: Cannot regenerate session id - headers already sent in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/nccore/SessionExtra.class.php line 225
[PHP_Warning]: Cannot modify header information - headers already sent by (output started at /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/htdocs/index.php:68) in file /home/sites/heteml/users/h/i/r/hiroogas/web/kashiward/maple/filter/Filter_SetConfig.class.php line 261